居場所探し
そこは、居心地の良いオアシスでした。冷たすぎず、熱すぎず、誰もがここに居続けたいと思うほど、気持ちの良い場所です。
誰もが足を留め続けるある日のこと。
しばらくオアシスに居続けていた少年は、旅立ちました。気持ち良いはずのオアシスから離れていったのです。
少年は近くの街に出ました。あてもなく歩く様子の少年に、老人が尋ねました。
「君はどこに行こうとしているのかい?」
少年は表情もなく答えました。「自分の居場所を探している」と。
「そうか居場所を探しているのか。君の居場所探しについていきたい」
老人は旅の供を申し出たのです。
少年は何も言わずに歩き出しました。老人は後ろから見守るようについていきました。
砂漠に出ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、砂漠はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは熱すぎるから、いやだ」
少年は歩き出しました。
草原に出ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、草原はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは乾燥しているから、いやだ」
少年はまた歩き出しました。
森に出ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、森はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは動物の声がうるさいから、いやだ」
少年はまた歩き出しました。
沼地に出ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、沼地はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは地面がぬかるんでいるから、いやだ」
少年はまた歩き出しました。
海に出ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、海はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは潮風で目が沁みるから、いやだ」
少年はまた歩き出しました。
雪山に出ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、雪山はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは寒すぎるから、いやだ」
少年はまた歩き出しました。
老人は困ってしまいました。
そして、少年に尋ねました。
「元々君がいたオアシスに、帰りたいんじゃないのかい? そこが君の居場所ではないのかい?」
しばらくしてから、少年は答えました。
「帰りたくはない。オアシスは、僕の居場所ではなかった」
大きな街に来ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、街はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは忙しないから、いやだ」
少年はまた歩き出しました。
人気の少ない田舎に来ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、田舎はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。ここは静かすぎるから、いやだ」
少年はまた歩き出しました。
都会でも田舎でもない町に来ました。少年は足を止めました。
老人は言います。
「君の居場所に、都会でも田舎でもない町はどうだい?」
「いいや、僕の居場所ではない。……理由はわからないが、僕の居場所ではない」
少年は脇目も振らずに、また歩き出しました。
世界中どこを回っても、少年は少年の居場所を見つけられずにいました。この世に自分の居場所はないのだろうか。少年はふと立ち止まり、ため息をつきました。そんな少年の姿を見て老人は言いました。
「君は自分の居場所を、もう持っているんじゃないのか?」
少年は老人の顔を見つめました。その目は驚いて丸く開いていました。
「嫌だと思える自分を持っている。ここは自分の居場所ではないと、感じ取ることができる。無意識のうちにわかっているのではないか? 自分で自分の居場所を『作りたい』と」
老人は真っ直ぐ少年の目を見つめて言いました。
「君が今まで見てきたものが、自分の居場所ではないと感じるのは、他の誰かの居場所だからかもしれない」
「他の誰かの居場所は、他の誰かの居場所であり、自分の居場所とは呼べない。君はオアシスを出た。オアシスは自分の場所ではなく、誰かの場所だと感じたからだろう。他のどこかに身を置いても、誰かの居場所に入り込むだけで、心を落ち着かせることはできないだろう」
老人は言葉を続けました。
「自分の居場所を見つけたいなら、自分の居場所を作り出せばいい」
「『作り出す』……か」
少年はぽつりとつぶやきました。何度も何度も口の中で繰り返しました。
しばらくして少年は、にこりと老人に笑いかけました。固くなっていた表情がほぐれるように緩んでいきます。そして老人の眼差しに向かって、ゆっくりと、うなずきました。
老人も、にっこりと、微笑み返しました。
少年は前を向き、一歩足を踏み出しました。
新しいどこかへと、また歩き始めました。
老人はもう、少年の後ろをついていくことはしませんでした。