好きじゃない、でも……
「キミのこと、好きじゃない」
そう言うと、あの子も同じように言ってくる。
『キミのこと、好きじゃない』
「嫌いだよ」
『嫌いだよ』
「キミの癖っ毛が嫌い。だんごっ鼻も、分厚いくちびるも嫌い」
『キミの癖っ毛が嫌い。だんごっ鼻も、分厚いくちびるも嫌い』
「キミの性格も嫌い。怖がりで臆病なところや、優柔不断なところも嫌い」
『キミの性格も嫌い。怖がりで臆病なところや、優柔不断なところも嫌い』
「嫌い」
『嫌い』
同じことを、同じタイミングで言ってくる。口の動きも同じだから、もっと腹が立つ。
やってはいけませんって誰かに教えられたけど、嫌いなあの子を足で蹴ってみた。
バシャンッと音がして水しぶきがあがって、あの子の靴と同じ色をしたぼくの靴が濡れてしまった。
あの子もぼくの足を蹴ってきたんだ。
すると、あの子の姿がゆらゆら揺れ動いた。顔も体も手も足もぐちゃぐちゃになった。
嫌いなあの子の何もかもが、歪んで、歪んで、形がなくなった。
あの子は必死で落ち着きを取り戻そうとしているがなかなかできない。
……ぼくが、蹴ったから?
ぼくがあの子を嫌うから?
だからこんなことになったの……?
歪んだ顔がもとに戻ったころ、あの子は泣いていた。
目を真っ赤にして、涙がほっぺを伝っていった。
それはぼくも同じだった。涙がほっぺを伝ったことで、ようやくぼくも泣いていることに気がついた。
ぼくとあの子は、同じようにいっしょになって泣いていたんだ。
「ごめん。蹴ったりなんかして、ごめんね」
するとあの子も同じように言った。
『ごめん。蹴ったりなんかして、ごめんね』
悪口も言わないし蹴ったりもしないから、もう泣かないで。
ぼくと同じことをあの子も言っていた。
あの子もぼくと仲直りしたいみたいだ。
本当は、仲良くしていきたいんだ。
「今までごめんね」
『今までごめんね』
言われると嬉しくて、ぼくはにっこり笑った。
あの子も同じようににっこり笑ってくれた。
仲直りの握手をしようと右手を差し出すと、あの子は左手を差し出した。
……水たまりに映った、もう1人のぼく。